覆面頭巾

醜い顔を隠すため覆面をかぶった男は、自分のためになんでもするという女を押し倒した。
《読了時間の目安:18分》

「清司郎さま……」
古い大きな屋敷の一室、夕日に染まった薄暗い部屋で、美しい着物を身にまとった女が、アンティーク調のソファに座った男にすり寄っていた。
その男というのが変わっている。
立派な着物を着ているのだが、頭をすっぽりと覆う、布の袋のようなものをかぶっているのだ。
それは、目の所にだけ穴が開いた頭巾だった。
「清司郎さま、わたしたち、きっとうまくいきますわ」
女が甘ったるい声で言う。
「そうですね……ああ、そうだ、覆面のままでは失礼ですね。素顔をお見せしなくては……」
清司郎はそう言うと、ゆっくりと頭巾をはずした。
「うっ……そ、そんな……」
女が清司郎からぱっと体を離す。
その体は震え、顔には、驚愕の表情が浮かんでいた。
「どうしました?」
「い、いえ……なんでもありませんわ……ほほほ……」
「僕たち、結婚したら、子供は何人作りましょうか……君は何人欲しい?」
そう言いながら清司郎が身を乗り出すと、女はあわてて後ずさった。
「こっ、こっ……こどもっ?」
「どうしたんだい?」
清司郎が手を伸ばすと、女はたまらず声をあげた。
「いやぁああああ!」
そして、腰を抜かしたのか、這うような情けない格好で部屋から飛び出していった。
部屋に一人残された清司郎は、その表情を皮肉にゆがめ──と言っても、顔全体に負ったひどい火傷の跡で、その表情は読み取れなかったのだが──再び頭巾をかぶった。

清司郎は、大財閥である久遠寺家の御曹司である。
幼少の頃、事故で頭部全体に大火傷を負ってしまい、頭も顔も無惨にただれてしまっているため、普段は常に頭巾をかぶり、それを隠している。
その風貌のせいで、子供の頃はよくいじめられ、それは、大人になってもあまり変わらなかった。
清司郎の素顔を見た者は皆、気味悪がり、その表情を恐怖にゆがめるのだ。
社交界では密かに「久遠寺の覆面頭巾」と呼ばれ、下世話な噂話の格好の的となっていた。
「清司郎……」
女が開け放っていった扉の前に、清司郎の父親が立っていた。
清司郎は感情のない声で言った。
「父上……あの人なら帰りましたよ。せっかくのお話だったのに、すみません」
「そうか……」
清司郎は、複雑な表情の父親の前を横切り、自分の部屋に向かった。
大財閥の御曹司ともなると、縁談も多い。
しかしそれらは、ことごとく破談となっていた。
清司郎の顔のせいである。
どの女も皆、清司郎の素顔のおぞましさに耐えることができず、逃げ出してしまうのだ。
清司郎は、怖がられることには慣れているつもりだったが、これには傷ついた。
恋愛には、特別な夢を抱いていたのである。
この顔を気にせず自分を愛してくれる、運命の女性との出会いがきっとあるに違いない──そう信じていたのだ。
しかし、清司郎は何度も傷つき、やがて、夢を見るのをやめた。
完全に、心を閉ざしたのだ。
傷つくのはもうたくさんだった。
今は、自分を大切に思ってくれている両親のため、素直に縁談を受けているが、いつか、そんなものは終わりにするつもりでいた。
「ふぅ……」
清司郎は自分の部屋に戻ると、ソファーに身を投げ出し、目を閉じた。

──コンコン。
部屋の扉がノックされる音で、清司郎は目を覚ました。
少しウトウトしていたらしい。
「はい」
清司郎が返事をすると、扉が開き、使用人の格好をした女が入ってきた。
「今、お時間大丈夫でしょうか」
「ええ……」
清司郎がうなずくと、女は自己紹介を始めた。
「わたくし、今日からこちらで働くことになりました、奈々子と申します。新人ですので、至らない点があるかもしれませんが、一生懸命頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします──」
清司郎と同じくらいの年頃の、かわいらしい顔立ちの女である。
こんなに若い人間が使用人として入ってくるのは、珍しいことだった。
「失礼だけど、君、いくつ?」
「二三歳ですっ」
使用人の女──奈々子は、誇らしげな表情で言うと、期待に満ちた目で清司郎を見つめた。
(な……なんだ……ちょっと変わったヤツなのか……?)
清司郎はそんなことを考えつつ、冷静な口調で言った。
「……ありがとう。もう行っていいですよ」
「あの、何かありませんか?」
「え?」
「その、何か、やることは……」
「いや、別に」
「そうですか。じゃあ、何かあったら言ってくださいね。外で控えてますので」
「……?」
奈々子はペコリとおじぎをすると、部屋を出て行った。
(外で控えてる……?)
奈々子の最後のひとことが気になった清司郎は、立ち上がり、部屋のドアを開けた。
「……そこでなにしてるんですか」
ドアの外には、奈々子がちょこんと座っていた。椅子まで用意している。
「あっ、何か御用ですかっ?」
奈々子が顔を輝かせて立ち上がった。
「君、ずっとそこにいるつもりなんですか?」
「はいっ、わたしは清司郎さま専属の御用聞きを命じられておりますわっ」
「……」
清司郎は黙って部屋の扉を閉めた。
(どういうことだ……)
久遠寺家には何人もの使用人がいるが、こんなことは初めてだった。
使用人なら、用があるときに呼べば来るし、それで十分間に合っている。
専属の使用人が欲しいなどと頼んだ覚えはない。
(……そうか)
清司郎は顔を上げた。
友達も作らず、心を閉ざしている自分を見かねて、両親がやったことかもしれない。
(余計なことを……)
清司郎が再び扉を開けると、奈々子は扉の前に立っていた。
その妙な迫力に面食らいながら、清司郎は言った。
「君には悪いけど、専属の使用人は必要ありません。上の人に伝えて、配置換えしてもらってください」
「そっ、それはダメですわ!」
奈々子があわてたように言う。
「その……えっと……そうだ、ご両親の命令ですからっ」
「やっぱりそうなのか……で、ずっとそこにいるつもりですか?」
「はいっ。なんでも言ってくださいっ」
(面倒だな……)
清司郎は両親に妙な気をつかわれていることに苛立ちを覚えていた。
その矛先は、清司郎に無邪気な眼差しを向けている奈々子にも及んだ。
(そうだ……)
清司郎は奈々子を遠ざける卑劣な方法を思いつき、ほくそ笑んだ。
「……なんでもしてくれるの?」
「はいっ」
「じゃあ、部屋に入って」

清司郎は奈々子を部屋に招き入れると、扉を閉めた。
威圧感を与えるように、ソファにドカッと座ってみせる。
そして、自分の前に奈々子を立たせた。
「じゃあまず、エプロンをはずして」
「え……?」
「早く」
「あ、はい……」
奈々子は言われた通り、白いエプロンを外した。
「……そう。じゃあ次は、そのワンピースを脱いで」
「……!」
奈々子の目が驚いたように見開かれる。
頭巾の中で、清司郎はいじわるな笑みを浮かべていた。
(これでこの女は逃げ出すに違いない……)
ところが、奈々子は予想外の行動に出た。
黒いワンピースを脱ぎ始めたのだ。
(なっ……!)
「脱ぎましたわ」
奈々子のほっそりとした体があらわになる。
奈々子は透明感のある、白いスリップを着ていた。
下着が透けて見え、スリップのすそからは、すらりとした足が伸びている。
「じゃ、じゃあ……次は……その……上に着てる白いのだ」
「……これですか?」
奈々子がスリップのすそをつまんで言った。
「そうだ」
清司郎は平静を装って言った。
(さすがに、もう無理だろう……)
しかし奈々子は、静かに「わかりました」と言うと、スリップも脱いでしまった。
白いブラジャーに包まれた、やわらかそうな胸が目に入り、清司郎は自分の体の反応にあせった。
(くそっ、なんなんだ、この女……)
「つ、次だ……そのストッキングも」
「……はい」
奈々子は素直に従い、身に付けているのは下着のみ、ブラジャーとパンツだけになってしまった。
「おっ、お前、嫌じゃないのか?」
「なんでもやると言いましたわ」
「だからって……逃げてもいいんだぞ」
「いいえ。このくらい、清司郎さまのご命令なら、どうってことありませんわ」
「……そうか」
清司郎は立ち上がり、奈々子のうしろに回った。
そして、両手で奈々子の胸を包むようにして言った。
「こっ、こんなことされてもかっ?」
「へっ、平気ですっ」
すると突然、清司郎は笑い出した。
「ククク……そうか、わかったぞ。こんなことをされても平気だなんて、お前、商売女だな。ハハハ……両親に商売女をあてがわれるとはな!」
すると、奈々子は勢いよく振り返り、まくしたてるように言った。
「違います違います違いますっ!!」
顔が真っ赤になっている。
その表情に、清司郎は混乱した。
嘘をついているようには見えなかったのだ。
「ふ、ふん、なんとでも言えばいいさ……とにかく俺は、お前が逃げ出すまでやめないからな!」
清司郎は奈々子の肩をつかんで背中を向けさせ、思い切って、奈々子のブラジャーをはずしにかかった。
しかし実は、こんなことをするのは初めてで、頭の中ではあせっていた。
奈々子のブラジャーを取り去ると、清司郎は再び、奈々子の胸に両手をあてた。
(や、やわらかい……)
清司郎は一瞬、目的を忘れてしまいそうになった。
しかし、あわてて気持ちを奮い立たせる。
この女をいじめて、逃げ出させるのが目的なのだ。
清司郎が胸を揉むと、手のひらに固くなった彼女の乳首があたった。
清司郎は本能的に、その乳首をつまんだ。
「んっ……!」
奈々子が声をあげる。
(しまった、痛かったか……)
そんなに力を入れたつもりはなかったが、清司郎はあわてて手を引いた。
しかし、今ので奈々子は恐怖を感じたかもしれない。
「フフフ……早く逃げないと、もっとたいへんな事になるんだぞ」
そう言って、清司郎が奈々子の顔をのぞき込むと、奈々子は顔を真っ赤にして、目を潤ませていた。
(なっ……なんなんだよ……こいつ、本当に商売女じゃないのか……?)
清司郎は不安げな口調で言った。
「ま、まさかお前、親が病気で金が必要で、クビになったら困るとか……だから何でもやるとか……そういう感じなのか? それなら別に、大丈夫だぞ? 無理してこんなことやらなくても……」
すると奈々子は、胸を両手で隠し、振り向いて言った。
「そういうんじゃありませんわっ。とにかくわたしは、清司郎さま専属の使用人をやるんですっ」
「そうか……」
清司郎は奈々子をソファに押し倒して言った。
「こんなことされてもか?」
「……清司郎さまなら……うれしいんです、わたし」
「は?」
「だ、だからっ……わたしは清司郎さまのことが好きなので、こういうことされてもいいと思ってます!」
「……なに言ってんの」
清司郎は我に返り、静かな口調で言った。
嫌な記憶が蘇り、体が強ばる。
「俺の顔のこと、知ってて言ってるのか?」
すると、奈々子は清司郎を真っ直ぐに見て言った。
「知っています。小さい頃に事故で大火傷を負ったと聞いておりますわ」
「ふん……甘いな」
「えっ……」
「俺の顔を見ると、あまりのおぞましさにみんな逃げ出すんだ。必ずだ。君だってそうに決まってる」
「そんなこと……」
「もういい、出てってくれ」
「……ご命令なら」
「違う。君はクビだ。二度と俺の前に顔を見せるな」
「そんなの、イヤですっ!」
奈々子が清司郎に抱きついた。
気持ちとは裏腹に、清司郎の体はうずいてしまう。
「たのむから、出てってくれ……俺だって男だから、我慢できなくなる」
「我慢することありませんわ……」
(くそっ……)
清司郎は奈々子を自分の大きなベッドに引っ張って行き、乱暴に押し倒した。
「本当にやるぞ」
「はい」
「アンタと恋愛ごっこなんてするつもりはない。性欲のはけ口にするだけなんだぞ。それでも……」
「わかってます。お役に立てるなら本望ですわっ」
奈々子は本当に出て行く気がないらしい。
清司郎は耐えきれず、奈々子のやわらかな胸を揉んだ。
奈々子の頬が紅潮し、息が荒くなる。
乳首をなでると、奈々子は声をあげた。
「あっ……」
乳首をそっとつまむと、奈々子は身をくねらせ、甘い声をもらした。
「ああっ、んあぁっ……」
どうやら気持ちいいらしい。
頬を染め、シーツを握りしめ、身をよじって感じている奈々子がかわいくてたまらず、清司郎はしばらくそうしていた。
「清司郎さま……」
奈々子が両腕を伸ばし、清司郎を抱き寄せた。
ベッドの上で、二人は抱き合った。
「ちょっと待って……」
清司郎は奈々子から離れ、はやる手つきで着物を脱ぎ始めた。
奈々子の白くやわらかな体を、体で感じたいと思ったのだ。
清司郎は頭巾と下着だけを残し、裸になった。
男らしく成熟した、たくましい身体があらわになる。
しかし、肩や胸にも広がっている火傷の跡が、頭部の火傷の酷さを物語っていた。
清司郎は、再び奈々子を抱きしめた。
素肌で感じる奈々子はまた、格別だった。
やわらかくて、あたたかくて、天にも昇る気持ちになってしまう。
清司郎は奈々子の頭から足の先まで、あらゆる部分をなで回した。
すると、清司郎は不意に悲しくなった。
奈々子にキスをしたいと思ったのだが、それはできないのだ。
清司郎が奈々子の顔を見つめていると、奈々子も顔を上げ、頭巾をかぶった清司郎の目を見つめた。
奈々子が手を伸ばし、頭巾の上から清司郎の頬に触れると、清司郎は体を強ばらせ、その手をつかんで言った。
「頭巾をとってはいけないからね」
顔を見られたら、おしまいなのだ。
奈々子は恐怖し、嫌悪をあらわにして、逃げ出すだろう。
想像するだけで、身を引き裂かれるように辛い。
清司郎はもう、奈々子と離れたくなかった。
恋をしてしまったのだ。
誰にも心を開くまいと思っていたのに、自分が本当に愛されることなどないとわかっていたのに、こんなに簡単に恋に落ちてしまった自分が情けなかった。
「お願いです、キスしてください……」
奈々子が懇願するように言った。
清司郎はうれしさと苦しさで、胸が張り裂けそうだった。
「俺もそうしたいが……頭巾をとることはできない……無理だ……」
「目を閉じています。だから、お願い……」
「それなら……でも、絶対に目を開けてはいけないよ」
「はい……」
奈々子が目を閉じたのを確認すると、清司郎は頭巾を少し上げ、奈々子の唇に自分の唇を重ねた。
(ああ……)
そのすばらしい感触に、清司郎は震えた。
見ると、奈々子の目から涙がこぼれていた。
清司郎は嫌な予感がして、さっと唇を離した。
「どうして泣いてる? やっぱり、嫌なんだな?」
すると奈々子は、目を閉じたまま、かぶりを振って言った。
「違いますっ……そうじゃなくて、すごく、うれしかったから……。それより、清司郎さまは……嫌じゃなかったですか? なんだか、つい、あの……無理にお願いしてしまって……」
「そんなこと……嫌なわけない。俺だって、すごくキスしたかった」
清司郎はそう言うと、再び奈々子に唇を重ねた。
清司郎がおずおずと、奈々子の唇の奥に舌を入れると、奈々子も舌を絡めてきた。
二人は夢中でお互いを求め合った。
(頭巾が邪魔だな……)
奈々子はしっかりと目を閉じている。
(大丈夫か……)
清司郎は頭巾を取り去った。
「……このままずっと目を閉じててほしい」
「大丈夫です、いいと言われるまで閉じてますわ」
清司郎は奈々子の返事を聞くと、手を伸ばし、思い切って奈々子のパンツの中に手を入れ、奈々子の秘部に触れた。
そこは奈々子の中からあふれ出した愛液で、ぐっしょりと濡れていた。
「あ……」
奈々子が恥ずかしそうな表情を見せる。
(すごい、濡れてる……)
清司郎が指を動かし、秘部を刺激すると、奈々子は声をあげた。
「あっ、ぁん、あぁあっ──」
清司郎は女性の体を知らなかったが、本能に導かれるように、奈々子の中に指をうずめていった。
「あぁああっ……あぁっ、んんっ、あぁっ」
奈々子は身をくねらせ、激しく感じている。
少し心配になり、清司郎は聞いた。
「痛い?」
しかし、奈々子はかぶりを振って言った。
「ううん、だ、大丈夫です……なんと言うか……すごくて……」
「気持ちいいの?」
「……うん」
それを聞くと清司郎はうれしくなり、奈々子のパンツを脱がせ、反応を見ながら、様々なやり方で奈々子の秘部を刺激し続けた。
しばらくの間、そうしていると、奈々子が言った。
「あっ、はぁ、はうっ……んっ……せっ、清司郎さま……」
「……ん?」
「あのっ……女性の方からこんなこと言うの、ダメかもしれないんですけど……」
「うん、何? 大丈夫だから言ってみて」
「あの……もう、が、我慢できないんです……その……」
「……え?」
「早く……その……い、い、入れてほしくて……」
「あ……あ、ごめん! そうだよね」
「……す、すみません」
「いや、あやまることなんか……ちょっとまって」
何もかもが新鮮で、つい、夢中になってしまっていた。
清司郎はあわてて下着を脱ぎ、大きくなったペ○スをあらわにした。
と言っても、目を閉じたままの奈々子にはそれが見えなかったのだが──
「じゃあ……いくよ」
「はいっ……」
清司郎は奈々子の秘部にペ○スを突き立て、そして、ゆっくりとうずめていった。
「いっ……」
奈々子の顔が痛みに歪む。
「痛いの? だいじょうぶ?」
清司郎が動きを止めて聞くと、奈々子は言った。
「痛いですけど、大丈夫ですわっ……やめないでください」
「……ああ、わかった」
清司郎は再び、腰に力を入れた。
「……入った。全部入ったよ」
なんとも言えない感覚に震えながら、清司郎は言った。
「……うれしい」
奈々子はそう言って微笑んだ。
「動いてみてもいいかな……」
奈々子がうなずくと、清司郎はゆっくりと腰を動かした。
「あぁ、すごい……すごいよ……すごく気持ちいい……」
「あっ、わっ、わたしも……んっ、あぁっ、気持ちいいですっ……こっ、こんなの……初めてっ……も、もう……だめかもっ……」
清司郎は、どんどん動きを激しくしていく。
「あっ、ぁあっ、はぁん、せっ、清司郎さまぁ!」
「ああっ……奈々子っ……奈々子っ……!」
「んっ、あんっ、も、もうっ……だめぇえええ」
「俺もっ、俺も、もう……!」
「あっ、あぁっ、すごっ、すごいぃ……はぁん、あぁん、清司郎さまぁああ……!」
二人は強く手を握り合い、同時に絶頂を迎えた。
「はぁ……はぁ……」
「んっ……はぁあ……はぁ……」
「すごく気持ちよかった……君も……気持ちよかった?」
清司郎が言うと、奈々子は甘い声で返事をした。
「はい……」
清司郎は奈々子の方を向き、奈々子の頭を撫でた。
もう、奈々子のことが可愛くて仕方がなかった。
華奢な体、白い肌、生意気そうな鼻、キスしたくなる唇、長いまつげ、清司郎をじっと見つめる茶色の瞳……
「……ひ、瞳!?」
「え?」
「ぁあああああああああ!」
清司郎は飛び起き、自分の顔に手を当て、頭巾をかぶっていないことを確認すると、あわてて奈々子に背を向け、頭を抱えた。
「あ、あの……どうしたんですか?」
「おっ、おまっ、俺の顔っ、俺の顔見たのか!?」
「あ、そっか、そうでした……すいません」
「そんな……そんな……」
清司郎は絶望した。
本当の自分が愛されなくてもいい、顔を隠したままでも、ただとにかく、奈々子と離れたくないと思っていたのに。
「あの……途中で……気持ち良すぎて……えへへ、興奮して、つい、目を開けちゃいましたわ」
「……途中で?」
清司郎はかすれる声で聞き返した。
「あ、はい……」
「途中って……?」
「えっと……たしか、その……れ、例のアレが入ったちょっと後くらいだったかと……って、いくらわたくしでも、こういうこと言うのは恥ずかしいですわっ。清司郎さまが聞きたいっていうんなら仕方ありませんけど──」
清司郎の頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになる。
「……で、その後ずっと、俺の顔見てたってこと?」
「ええ……うふふ……なんか、清司郎さまも気持ちいいのかなーとか思ったら、キュンキュンしちゃいましたわぁ」
「キュンキュンって……嫌じゃなかったのか? その……俺の……顔は……」
「え? だから、それは最初に言ったじゃないですか。清司郎さまが好きなんですって──」

清司郎と奈々子は再び愛し合った。
もちろん、頭巾はかぶらず、奈々子も目を閉じなかった。
その後も数日間、二人は何度も、何度も愛し合った。
清司郎は幸せだった。
奈々子とずっと一緒にいたかったし、奈々子さえ良ければ、すぐに結婚してもいいと思っていた。
ところがある日突然、奈々子は姿を消してしまったのだ。
聞くと、なにやら事情があり、使用人をやめてしまったらしい。おかしな話だが、連絡先も分からないという。
(お互いに惹かれ合っていると思っていたのに……どうして……)
清司郎は悲しみにうちひしがれた。
やはり、自分の醜い顔が嫌になったのかもしれないと考えもしたが、そうは思えなかった。
奈々子がそんなことを気にする人間じゃないということは確かなのだ。
だからこそ、気持ちに整理がつかなかった。
(どんな事情があったんだろう。よっぽど言いにくいことだったんだろうか。それでも、ひとこと言ってほしかった。俺たちは強く結びついていたと思っていたが……そう思っていたのは俺だけだったのか──)

そんなある日、また縁談が持ち上がった。
奈々子のことが忘れられない清司郎は、縁談など受けたくなかったが、両親の手前、素直に従うことにした。
お互いの親を交えての堅苦しい挨拶などは後回しにして、まずは二人きりで会いたいと言う相手からの要望があったため、清司郎は一人、来客用の部屋で待っていた。
余計な時間を取られずに済むのは清司郎にとってもありがたかった。
資産家の令嬢だというから、素顔を見せればあっという間に逃げて行くだろう。
金目当ての女の場合、面倒なことに、素顔を見て嫌悪感を抱いても、しばらく粘ることがあるのだ。
そんなことを考えていると、扉が開いた。
使用人が、美しい着物に身を包んだ女性を部屋に案内して、扉を閉めた。
「どうぞ、こちらへ──」
清司郎は立ち上がり、女性を席へ案内した。
何もかも、どうでもいいと思っていた清司郎は、女性の顔すら確認しなかった。
女性が席に着くと、清司郎も席に着いた。
沈黙が続く。
すると、女性が口を開いた。
「こうして見ると、頭巾姿もミステリアスで素敵ですわね。うふふ……そのままするのもいいかもですわ」
その声を聞くと、清司郎は顔を上げ、初めて相手の女性の顔を見た。
「な、な……」
「清司郎さま!」
「奈々子!?」
清司郎は勢いよく立ち上がり、もつれる足で奈々子の元へ行くと、その華奢な肩をつかみ、まじまじと顔を見つめた。
「本当に奈々子だ! どうして……でもよかった……もう会えないかと……」
混乱する清司郎に向かって、奈々子はバツの悪そうな顔で言った。
「こんなことになってごめんなさい。実は……」
奈々子は、実は資産家の令嬢だった。
清司郎と同じように、縁談も多く、男性とお付き合いをすることもあったらしい。
しかし、お見合いの時はいい子ぶっていても、実際はひどい男だった、ということが続いたのだという。
それに懲りた奈々子は、次のお見合い相手──清司郎だが、その本性を探るため、使用人のフリをして近づいたというのだ。
「そ……そうだったのか。確かに、おかしな感じだったもんなぁ。俺専属とか……」
「清司郎さまのご両親に無理を言って、そういうことにしてもらったの」
「へぇ……まったく、よくやるよ──でも、アレは? ほとんど会ってすぐ、俺のことが好きだとか言ってたけど……あれも作戦? だとしたら、俺、不合格のような気もするけど……」
「あれは本当なの。じゃなきゃ、いきなりあんなエッチなコトしませんわっ。あなたを見た瞬間に思い出したの。清司郎さまはわたしの初恋の人だったのよ」
「えぇっ!?」
「子供の頃の話。まぁ……それはまた、今度話すから。それより……わたし、もう我慢できませんわ」
奈々子はそう言うと清司郎に抱きつき、頭巾をとると、清司郎の頬にキスをした。
奈々子の目が、何かをねだるように清司郎を見つめている。
「あ、いや……ここではマズイから……」
「それじゃあ、移動しましょっ。はやく!」
奈々子が清司郎の手をにぎる。
清司郎は笑顔を浮かべて言った。
「わかったよ。じゃあ俺の部屋に行こう。……天国に連れてってあげるよ」
「うふっ、なんですか、そのセリフ! でも……すっごくうれしいですわっ!」
清司郎と奈々子は、手をつなぎ、笑い合いながら部屋を出ていった。

おわり